コラム
2026/10/19 2026/09/28

経営者の離婚で会社の財産はどうなる?自社株・役員報酬・事業用資産の財産分与を解説

「離婚したら、会社まで手放すことになるのだろうか」

経営者の方が離婚を考え始めたとき、多くの方がこのような不安を抱かれます。

  • 自社株式を配偶者に渡さなければならないのか
  • 役員退職慰労金は財産分与の対象になるのか
  • 事業用の借入金の連帯保証はどうなるのか

このような疑問を抱えたまま話し合いを進めるのは危険です。経営者の財産分与は、給与所得者の離婚に比べて対象となる財産の種類が多く、評価も複雑になりやすいためです。

本記事では、経営者の離婚における財産分与の基本的な考え方、自社株式や役員報酬の扱い、注意すべきポイントについて解説します。

財産分与の基本的な考え方

離婚時の財産分与は、婚姻中に夫婦が協力して築いた財産を、公平に分配するための制度です(民法768条)。

実務上、対象財産は原則として2分の1ずつに分けるという考え方が定着しており、これを「2分の1ルール」と呼びます。

経営者の場合、個人の手腕によって高額の資産形成がなされていることも多く、「自分の努力で築いた財産まで半分渡すのか」と疑問を持たれる方も少なくありません。しかし、その経営手腕自体が婚姻期間中の協力関係のなかで発揮されたものと評価される以上、原則として2分の1ルールが適用されます。

なお、婚姻期間中に一方が過大に負担していた婚姻費用がある場合、その清算を財産分与の中であわせて行うことも可能とされています(最高裁判所第三小法廷判決昭和53年11月14日民集32巻8号1529頁)。

自社株式は財産分与の対象になるか

経営者の離婚で最も争点になりやすいのが、自社株式の扱いです。

会社名義の資産(会社が保有する不動産・預金等)は、原則として財産分与の対象外です。会社と個人は別人格として扱われるためです。

個人が保有する自社株式は、婚姻中に取得したものであれば、原則として財産分与の対象になります。

婚姻前から保有していた株式は個人の特有財産として対象外となるのが原則ですが、婚姻期間中に企業価値が増加した部分については、配偶者の寄与が考慮される可能性があります。

配偶者が経理・営業などの形で会社の維持・発展に実質的に貢献していた場合、その寄与度に応じて自社株式が財産分与の対象と評価されることもあります。

株式の保有割合によっては、財産分与の結果として経営権に影響が及ぶおそれもあるため、現金による分与の可否など、早い段階で対応方針を検討しておくことが重要です。

実際の裁判例でも、会社の実態が個人事業の延長といえる場合や、個人の出資割合が大半を占める場合には、法人の資産までも財産分与の対象に含められる可能性があるとされています。例えば、医師である夫が婚姻後に個人の診療所を法人化して医療法人を設立したケースで、法人の財産は婚姻共同財産であった法人化前の診療所の財産に由来し活用によって増加したものであるとして、全出資持分を財産分与の対象財産と評価し、その評価額を算定するのが相当であるとされたものもあります(大阪高等裁判所判決平成26年3月13日判例タイムズ1411号177頁)。

経営者本人の「特殊な才能」による資産形成は考慮されるか

経営者の中には、「自分の特殊な才能や労力によって高額の収入を得てきたのだから、機械的に2分の1ずつに分けるのはおかしいのではないか」と感じる方も少なくありません。

実務上は2分の1ルールを原則としつつも、高額な収入の基礎となる特殊な技能が、婚姻届出前の本人の個人的な努力によっても形成されており、婚姻後もその才能や労力によって多額の財産が形成されたと認められる事案では、そうした事情を考慮して寄与割合を加算することも許容されるとする裁判例があります。先に触れた医療法人のケースでも、夫が医師の資格を取得するまでの勉学等について婚姻届出前から個人的な努力を重ねてきたことや、資格取得後にこれを活用し多くの労力を費やして高額の収入を得ていたことを考慮して、夫(控訴人)の寄与割合を6割、妻(被控訴人)の寄与割合を4割とすることには合理性があるとされました(大阪高等裁判所判決平成26年3月13日判例タイムズ1411号177頁)。

ただし、このような修正が認められるのは限定的な場面であり、通常の経営努力の範囲では2分の1ルールが維持される点に注意が必要です。個別の事情がどこまで考慮され得るかは、専門家に相談のうえ見極めることをおすすめします。

自社株式の評価はなぜ難しいのか

非公開会社の株式には市場価格がないため、財産分与にあたっては別途評価が必要になります。

純資産価額方式、類似業種比準方式など複数の評価方法があり、どの方法を用いるかによって評価額が大きく変わることがあります。

会社の帳簿・決算書の内容を精査したうえで評価する必要があり、税理士等の専門家と連携した対応が求められる場面も少なくありません。

評価額をめぐる対立は交渉の長期化につながりやすいため、早めに専門家へ相談し、評価の根拠を整理しておくことが望ましいといえます。

役員報酬・退職慰労金の扱い

役員退職慰労金についても、婚姻期間に対応する部分は財産分与の対象となり得ます。

会社の内規で退職慰労金の支給基準が定められている場合は、その基準に基づいて婚姻期間に対応する見込み額を算定します。

支給の有無や金額が会社の裁量に委ねられている場合、将来受け取れる保証がないとして対象性が争われることもあります。

裁判例においても、退職金を財産分与の対象と評価したうえで、配偶者の寄与が認められる期間に応じて按分するという考え方が示されています。婚姻期間17年(同居期間は10年余)の夫婦が離婚するにあたり、夫の退職金等の維持形成に妻が寄与したのは、夫の勤務期間(12年2か月)のうち妻と同居していた期間(5年8か月)だけであるとして、退職金等にこの寄与期間率(68か月/146か月=約0.4658)を乗じたうえで、その2分の1を分与額とした審判例があります(横浜家庭裁判所審判平成13年12月26日家庭裁判月報54巻7号64頁)。婚姻期間中であっても、別居期間がある場合には寄与割合が調整され得る点は、実務上おさえておくべきポイントです。

役員報酬自体は婚姻中の収入として扱われ、婚姻費用や養育費の算定の基礎にもなるため、財産分与とあわせて整理しておく必要があります。

事業用資産・借入金の連帯保証に関する注意点

経営者の離婚では、資産だけでなく負債の扱いにも注意が必要です。

事業用の借入金について経営者本人が連帯保証人になっているケースは多く、離婚後もその責任は変わりません。

配偶者が連帯保証人や役員に名前を連ねている場合、離婚後の保証人・役員の地位の解消についても、金融機関や会社との調整が必要になります。

事業用資産(社用車、什器備品等)が個人名義になっている場合、会社名義への変更が漏れていないかも確認が必要です。

また、負債が資産を上回るいわゆる債務超過の状態で、配偶者に対して2分の1を大きく超えるような過大な財産分与を行った場合には、後日、債権者から詐害行為として取り消しを求められるおそれがある点にも注意が必要です。

経営者の離婚は早めの相談が重要です

経営者の離婚は、対応を誤ると会社の経営そのものに影響が及びかねません。次のようなタイミングでの相談をおすすめします。

  • 配偶者に離婚を切り出す前
  • 財産の開示や自社株式の評価に着手する前
  • 財産分与に関する合意書へ署名する前

早い段階で弁護士に相談することで、会社の資産と個人の資産を整理したうえで、経営への影響を抑えた解決の道筋を検討しやすくなります。

福岡市西区・糸島地域で法律相談をご検討中の方へ

わかさ法律事務所では、福岡市西区・糸島地域を中心に、相続・離婚・企業法務をはじめとする幅広い法律問題に対応しております。

代表弁護士である私は、独立開業前に国内有数の大手法律事務所において、多岐にわたる案件を担当してまいりました。その経験を活かし、一人ひとりのご事情を丁寧にお伺いしながら、ご相談者様の状況に応じた解決策をご提案しています。

まとめ|経営者の離婚は会社への影響も見据えた対応が必要です

経営者の離婚では、自社株式や役員退職慰労金、事業用資産の連帯保証など、通常の離婚以上に検討すべき論点が多くあります。財産分与の内容次第では、会社の経営権にまで影響が及ぶこともあるため、早めに弁護士へご相談いただくことをおすすめします。

参考資料・出典

森・濱田松本法律事務所編等『家族・親族経営会社のための相談対応実務必携』民事法研究会

『家事事件手続Ⅱ』青林書院最高裁判所第三小法廷判決昭和53年11月14日民集32巻8号1529頁

大阪高等裁判所判決平成26年3月13日判例タイムズ1411号177頁

横浜家庭裁判所審判平成13年12月26日家庭裁判月報54巻7号64頁

© わかさ法律事務所