「別居中だが、生活費(婚姻費用)はいくらもらえるのだろう」とお悩みではありませんか?
離婚を検討して別居を始めた場合でも、婚姻関係が続いている間は、夫婦にはお互いの生活を支え合う義務があります。しかし、
「相手が生活費を払ってくれない」「いくら請求できるのか相場が分からない」「収入が変動した場合はどうなるのか」といった疑問を抱える方は少なくありません。
本記事では、婚姻費用の基本的な考え方から、相場の目安となる算定表の仕組み、高額所得者や有責配偶者のケースなど判断が難しい場面での考え方まで、詳しく解説します。
婚姻費用とは?
婚姻費用とは、夫婦が婚姻生活を送るために必要な生活費全般を指し、夫婦は資産・収入その他一切の事情を考慮してこれを分担する義務を負います(民法760条)。
別居していても、離婚が成立するまでは婚姻関係が続いているため、収入の多い側は少ない側に対して婚姻費用を支払う義務があります。
婚姻費用分担義務の考え方|生活保持義務とは
婚姻費用の分担義務(民法760条)は、「生活保持義務」と呼ばれる強い義務であると理解されています。
生活保持義務とは、義務者自身の生活水準と同程度の生活を、権利者にも保障すべきとする考え方です。自分の生活に余力がある範囲でのみ援助すればよいとされる「生活扶助義務」(親族間の一般的な扶養義務等)と比べて、より重い義務とされています。
そのため、義務者に一定の収入がある限り、権利者と義務者との間で生活水準に大きな差が生じないよう、婚姻費用の分担額が定められることになります。
婚姻費用の相場|標準算定表とは
婚姻費用の金額は、実務上「標準算定表」と呼ばれる算定表を用いて算定するのが一般的です。標準算定表は、東京・大阪の裁判官による研究会が公表したもので(判例タイムズ1111号285頁)、義務者(支払う側)と権利者(受け取る側)の年収を当てはめることで、婚姻費用の目安となる金額の幅を導き出す仕組みです。
令和元年12月23日には、司法研修所が公表した改定標準算定方式・算定表が示され、現在はこちらが実務で広く用いられています。
標準算定方式の考え方|どのように金額が決まるのか
算定表の金額がどのような考え方で導かれているかを知っておくと、示された金額の意味を理解しやすくなります。標準算定方式は、大きく次のような手順で計算されます。
- 義務者・権利者それぞれの総収入から、税金や職業費等の必要経費を控除した「基礎収入」を計算する(実務上は、総収入に一定の「基礎収入割合」を乗じて簡易に計算することが多い)
- 基礎収入を、権利者・義務者・子の「生活費指数」(大人を100とし、子の年齢に応じて指数が定められている)で按分し、権利者世帯に割り振られるべき生活費を算出する
- そこから権利者自身の基礎収入を差し引いた金額が、婚姻費用の目安となる
この基本的な計算の枠組み(収入按分方式)は、令和元年の改定でも維持されています。改定によって変更されたのは、基礎収入割合や生活費指数の計算に用いる統計データが、より新しいものに更新された点です。
高額所得者の場合の判断基準
標準算定表がカバーする年収には上限があり、給与所得者は2000万円、事業所得者は1567万円です。これを超える高額所得者の場合、実務では主に次のような計算方法が用いられます。
- 上限頭打ち方式:標準算定表の上限額をそのまま婚姻費用とする方法
- 基礎収入割合修正方式:年収が上がるほど自由に使える金額の割合(基礎収入割合)は下がる傾向があることを踏まえ、上限年収における基礎収入割合を年収に応じて修正して計算する方法
- 貯蓄率控除方式:総収入のうち貯蓄に回される部分を控除して基礎収入を計算する方法
年収1億円程度までは、このうち基礎収入割合修正方式または貯蓄率控除方式が用いられるケースもあります。実際の裁判例でも、給与所得約6172万円の義務者について基礎収入割合を27%とした例があります(福岡高決平成26年6月30日判タ1410号100頁・判時2250号25頁・家判1号88頁)。
このように、高額所得者のケースでは、収入に応じて基礎収入割合をどの程度下げるかという点が実務上の争点になりやすい部分です。事案によって結論は大きく異なるため、見通しを立てるためには詳細な事情を確認させていただく必要がございます。
収入の認定で問題になりやすいケース
婚姻費用の計算では、「誰の、いくらの収入を基礎とするか」の認定が争いになることがあります。
- 転職・退職により収入が減少した場合:自己都合による転職か、やむを得ない事情によるものかが考慮されます。裁判所は、一度取り決めた婚姻費用分担額を変更するには、合意当時予測できなかった事情の変更が必要であるとしています(大阪高決平22・3・3家月62巻11号96頁)。
- 住居費を相手が負担している場合:相手が住居費(家賃等)を負担している事情が、婚姻費用の金額に影響することがあります。
- 別居時に多額の預貯金を持ち出した場合:持出金の扱いが婚姻費用の前払いとみなされるかどうかが争点になることがあります。
このように、算定表に単純に当てはめるだけでは解決しない事情がある場合には、個別の検討が必要です。
有責配偶者から婚姻費用を請求された場合の考え方
別居に至った原因を作った側(有責配偶者)から婚姻費用を請求された場合、その扱いが問題になることがあります。
婚姻費用の分担義務は前述のとおり強い生活保持義務ですが、実務上、有責配偶者からの請求については、自己の生活費に相当する部分の請求が信義則(民法1条2項)に反するとして制限される一方、未成熟子の養育費に相当する部分は、子に責任がないことから通常どおり認められる傾向にあるといわれています。
どの範囲まで制限されるかは、有責性の程度や別居に至った経緯等の個別事情によって判断が分かれるところです。この点が争点になりそうな場合は、早めに弁護士へご相談いただくことをお勧めします。
婚姻費用の請求はお早めにご相談ください
婚姻費用は、請求した時点(多くの場合は調停の申立時)から発生するのが一般的な考え方です。そのため、
- 別居を始める前後
- 相手が生活費を支払ってくれないと分かった時点
- 収入の変動があった時点
などのタイミングで早めに弁護士へ相談することで、請求の時期を逃さず、適切な金額の見通しを立てやすくなります。
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まとめ|婚姻費用は算定の考え方を理解した上で個別事情を踏まえた検討が必要です
婚姻費用の金額は、標準算定表を用いて算定するのが実務上の基本ですが、その背景には収入按分方式という考え方があり、高額所得者や有責配偶者のケースでは、算定表だけでは解決しない判断が必要になります。
別居中の生活費でお困りの際は、お一人で抱え込まず、まずはお気軽に当事務所までご相談ください。